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翠月 -正月SS-

――樹の居ない正月。

 眠い目をこすりながら布団より起き上がる少年、仲迪 智(なかみち さとし)はまだ半分夢の国の住人のように冴えない頭で辺りを見回し、大きくあくびをした。そしてパタンとまた布団に倒れ込む。
「お正月なのに二度寝しない!」
 智の母、早苗(さなえ)が智の布団をひっぺ剥がし覚醒を促すと、少し眉をしかめ渋々智は起き上がった。
 パジャマ代わりに着ている白いTシャツと白いブリーフの下着姿の智に早苗が早く着替えるようさらに促す。その様子をドアの外から覗いていた少年、高見 樹(たかみ いつき)に向かって早苗が声をかけた。
「樹君ごめんね、智ったらだらしなくって。」
「え゛っ!?っうわぁ!?」
 その言葉を聞いた瞬間智は夢の国の住人から一瞬で帰還し、自分の残念な姿を樹に見られてしまったことへの羞恥が沸き起こり顔を赤くして部屋のドアを閉めた。
『ちょっと!なんで樹が来ているって言ってくれなかったの!?』
『何度も言って起こしたでしょう。全くもうあんたって子は……。』
 ドアを隔てて聞こえてくる智と早苗の会話にクスクスと静かに笑う樹。
 ドタバタと慌ただしい音が聞こえたかと思うと、智は恥ずかしそうにドアをゆっくり開け早苗を追い出し、樹を迎え入れた。
 布団は押し入れに片付けられ、智の姿も下着姿から赤いTシャツと黒いハーフパンツに着替えられていた。
「じゃぁごゆっくり〜。」
 茶化すように早苗が一言残して去ると、樹は堪え切れなくなって大きく笑い始める。
「智ってば、あはは。」
 六畳ほどの智の部屋の中で樹の笑い声が響いた。
「むっか〜、何だよこのスケベ!」
 寝起きと下着姿を見られ羞恥一杯の状態に追い打ちをかけるようにお腹を抱えて大声で笑う樹。顔を真っ赤にし、そっぽ向いてしまった智を見て樹は笑いを少し抑えて「ごめん。」と謝った。
 しかし樹がまだ笑っていることと羞恥のせいもあり智の顔は釣り上げられたフグのようにふくれっ面で、口をとがらせていた。
 このままだと口を利いてくれないなと察した樹はクシャクシャと智の頭を撫でて「ごめんごめん。」と先ほどよりも落ち着いた声で謝る。
「むー。」
 口をとがらせていた智はそっぽこそ向いたままだが声を上げた。
「仕方ないなぁ。」
 頭を撫でるだけでは許してくれなさそうだと感じた樹はショック療法を試みることにしてみた。智の背後に回ると後ろから抱き締めた。
「え……ってちょっ……!?うわぁぁはははは……!」
 樹は抱き締めたのではなく、智の体をくすぐり始めたのだ。
 不意打ちを食らった智は逃れようと体をよじるものの、がっちり背後から抑えられてしまったために逃れることができない。
 悪戯な笑みを浮かべながら、逃がすまいと樹はくすぐり続ける。
「も……ぎ、ギブはは……ギブー!!」
 叫びながら床を叩き降参の意を示すと樹は体を放して上げた。
「はぁ、はぁ……くすぐるなよこのスケベ!」
 呼吸を整えながら悪態をついて見せるが、先ほどの怒りはどうやら治まったようで智の表情が和らいでいた。
「いつまでも智が怒っているからだよ。」
「俺は怒ってなかった!……恥ずかしかっただけだし。」
 ぼそっと呟いた言葉の意味を汲み取った樹はもう一度「ごめん。」と謝った。好きな相手に自分の恥ずかしい姿は見られたくないものなのだと。樹からすればそうした智の無防備な姿も愛おしいのだが、この時の智も樹本人でさえもそのことにまだ気付いていなかった。
 智が友達以上の気持ちを樹に対して持っていることには二人とも気づいていたのだが。
 守りたくなるほどまっすぐで純粋に気持ちをぶつける智と違い、樹は幼いながら無自覚に自分のあらゆる気持ちを偽り内包していていたからだった。ただ、智と笑いあうときだけは偽りのない気持ちでいた。
「……遅くなったけど、あけましておめでとう。」
「おぅ、あけましておめでとう。」
 これが二人の最後の新年のあいさつとなった。


 眠い目をこすりながら布団より起き上がる智は、まだ半分夢の国の住人のように冴えない頭で辺りを見回し、大きくあくびをした。そしてパタンとまた布団に倒れ込む。
「お正月なのに二度寝しない!」
 早苗が智の布団をひっぺ剥がし覚醒を促すと、智は起き上がった。
 パジャマ代わりに着ている白いTシャツと白いブリーフの下着姿の智に早苗が早く着替えるようさらに促す。
 半開きになったドアの向こうに視線を合わせると智はぽつりと呟いた。
「……?樹は……?」
 早苗の手がピクリと止まった。
 あくびで出た涙にしては量の多い涙が智の黒い瞳からボロボロとこぼれ落ちていた。

翠月 -正月SS--了-


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☆蒼月・翠月特別編☆

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