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蒼月 -七夕SS-

――それは七夕の日の思い出。

 7月7日の七夕の夜、僕こと高見 樹(たかみ いつき)と仲迪 智(なかみち さとし)はこっそり家を抜け出して近所の小高い山に建てられたロッジに忍び込んだ。
 このロッジの外壁であるオレンジ色をした飾りレンガはほとんどボロボロに崩れ去っていて、代わりに剥き出しになったコンクリートに雑草やツタ植物が生え茂って緑色の建物のようになっていた。
 周囲の木々がガラスを突き破って侵入している箇所もあり、外見は少し薄気味悪い。しかし強くさびにくい合金製の鉄筋コンクリートで建てられたロッジの内部は、大地震アース・デストロイによるヒビやコンクリートの脱落は起こっているものの、未だしっかりとその存在を堅持していた。
 話に聞くとこのロッジは大昔に経営難とかで放置されたらしい。
 壊れている調度品以外は盗まれたのか多くの部屋はほとんど空っぽで、所々昔ここに住み着いた人の残留物がある程度だった。

「ささの葉さーらさらー、のきばにゆれるー。」
 黒い瞳に星の光を映し、文字通り目を輝かせながら智は無邪気に歌い始める。
 ロッジの屋上は空をさえぎるものが何もなく、周囲も暗いため、星空を眺めるには丁度よい場所だった。
 空には無数の星光り輝き、密集しているところは川のようにも見える。
 昔の人はこれを天の川と呼んでいたらしい。
「おー星さまキーラキラー。」
 僕が呼応するように続きを歌うと智がこちらを向いた、満面の笑みを浮かべている。
『金銀砂子ー。』
 最後の一小節を唱和すると、どちらともなく声を出してケタケタと笑い始めた。
 今考えると、昼間でも薄気味悪いロッジの中を星明かりだけでちょっとした冒険のように潜り抜け、満天の星空のもとで歌を歌う状況に何処にも笑う要素はないが楽しかった。
 ひとしきり笑うと二人で床に寝転がり、同じ空を眺めた。
 コンクリートと雑草の少しひんやりした感触、草の匂い、時々吹き抜ける風が気持ちいい。目が慣れてくると今まで見えていなかった星が増えて、宇宙の広大さに想いを馳せてみたくなる。
「なぁ樹の短冊のお願い事なんだったっけ?」
 寝転がったまま首だけを僕の方に向けて智が尋ねてきた。向けられたその顔は少し悪戯染みた笑顔で、これは聞かなくても分かっているときの智の顔だった。
「みんなが健康でありますように。」
 僕が言い終わる前に智はケタケタと笑いだした。
「樹ってば年寄りくさーい。」
「いいだろ別に。智なんか……。」
 そう言いかけて僕は口をつぐんでしまう。
 短冊に願った智の願いは『樹とずっと友達でいられますように。』だった。
 思い出すと胸が高鳴って、顔が熱く、それでいて嬉しさでニヤケてしまい智の顔を直視できない。
 智もさっきまでの無垢な笑いから一転照れ笑いで小さく笑っていた。
 そのまま沈黙し、空を切る風の音だけが流れる。
 何を思ったのか寝ころんだまま僕は智の手を握りしめた。ここに来るまでにも手をつないで歩いたのに、それとは違う何かがあった。
「樹とずっと友達でいられますように。」
 僕の手を握り返しながら智はつぶやいた。黒く大きな瞳と僕の目が合う。
「……僕はずっと、ずーっと智と友達だよ。」
 恥ずかしさで一杯になりながらも僕は笑顔で答えた。願うまでもない、智のささやかな想いが凄く嬉しかった。

 しばらくまた星を眺め、そして僕らはロッジを後にした。帰り道も行きと同じで手をつなぎ静かに歩く僕ら。でもその手のぬくもりは今までとどこか違う気がしていた。


――いつかまた、こうして智と星を眺めることができたなら僕は何を願うのだろう。

――智は何を願うのだろう。

 星空を眺めながら僕は叶わない、いや、叶えてはいけない思いを口にした。徐々に感情を失っていく殺人鬼である僕が智に触れることなどあってはならない……。

  ささの葉 サラサラ
  のきばに ゆれる
  お星さま キラキラ
  金銀砂子

  五色の たんざく
  わたしが 書いた
  お星さま キラキラ
  空から 見てる

 一緒に歌った童謡を一人頭の中で歌うと僕は紙に願いを書き、短冊のように木の枝に括りつけた。今の僕が願うことはただ一つだけ。


『智が幸せでありますように。』


蒼月 -七夕SS--了-


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