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翠月 第7話-黒白-

 空は黒く世界を覆う。雲も星もなく、ただ月だけを浮かべていた。
 月の明かりは死者の灯のように白い光を放ち、水に浸された大地を照らしている。
 水と大気以外は全て白く、彩を失っていた。水面下の道路も、立ち並ぶ建物も、良く出来たオブジェのように白い。黒と白の二値化された世界に彩を持ち水面に立ちすくむ少年とその背後で眠る少年が居た。
 立ちすくむ少年は背後の少年に気づいていないのか、返り血に塗れた自身の体を拭うこともせずぼんやりと月を見上げていた。
 水面で眠っていた少年が目を覚ます。白い月しかない黒い空と見慣れぬ景色に何が起きたのか分からないといった表情で首だけを動かして辺りを見回した。月明かりに照らされ逆光の中にいる人影を捉えた途端彼の鼓動は大きく脈打った。何の確信もない、直感が彼を突き動かす。
 静かな鏡だった水面は波を立て、水音を立てた。
 眠っていた少年が立ち上がり幾重にも水音を立てたと同時に、立ちすくんでいた少年は走りだした。血に染まった真っ赤な拳を握り締め、振り返ることもなくただただ走る。
 走り去る少年を追わなければならない、起き抜けでもつれそうな足を懸命に動かし少年は追いかけ、声にならない声で叫んだ。
「……っ!」
 声は届いているようだったが少年はその足を加速させ逃げるように走る。
「ま……っぇ……!」
 聞いてはいけないと振り払うようにうつむいたまま走る。
「待って!!」
 その様子に少年は先ほどの直感が確信に変わった。
「樹!!」
 名前を呼ばれた少年はついに足を止めた。一瞬の間を置いて追いかけてきていた足音が止むと、無気力に、血に塗れた凄惨な姿を少年に晒した。頭の毛先から靴に至るまで全身が紅く染まり異質な彩を放つ変わり果てた少年の姿だった。
「智、僕はもう汚れてしまったんだよ。」
 言葉を失い呆然とする智の前で血に塗れた樹の足元が崩れた。突然の崩落だった。冷たく何もない空間に飲み込まれていく樹を掴もうと差し延ばされた智の腕は虚しく空を掴む。

「それでも……!」

 智は迷うことなく崩落した空間へ飛び込んだ。落ちていく樹の瞼にうっすらと光るものが見えていた、理由はそれだけで十分だった。


 隔絶された真っ暗な闇の中で智は目を覚ました。
 蛍光塗料の塗られた車載の時計が差している時間はまだ夜明け前だった。展開していた隔絶を解くと空が一日の始まりを告げようと白々し始めていた。
 智は座席を起こし大きな欠伸を一つすると、首を左右に振り軽く伸びをした。徐々に薄れていく夢の記憶の中での最後の自身の決断を思い返し、智は気持ちを新たにする。たとえどんな姿に成り果てていても、たとえどんな状況に陥っても、迷わないと。
 遠く離れた山から朝日が昇り始めたころ、拳銃の手入れを済ませた智は次の目的地へ向かうべくアクセルを踏んでいた。

翠月 第7話-了-


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