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翠月 第6話-決意-

 主を失くし、時の止まった部屋があった。机と椅子、メモ書きと鉛筆、布団と理路整然と片付けられた部屋は使用者の性格を反映しているかのごとく殺風景だが、ところどころ堅いもので殴りつけたような打痕のある壁や床がここで何かあったことを連想させる。別の部屋に通じる扉は開きさえしなければ倒れてくることはないといった具合に半壊していた。外れかかったカーテンレールが暗色のカーテンを辛うじてぶら下げており、カーテンフックも引きちぎられそうになったのかところどころ合金が剥き出しになっている。他者を拒絶する小空間と成り果てた部屋だったが机の上の中央だけは今も時が動いていた。
 小さな紙片が数日ごとに一枚、また一枚と増えていく。紙片はこの部屋の主にあてたメッセージだった。
「……帰ってきているわけないよな。」
 少年は独り呟いた。読まれることなく積っていくそれは想いの叶わぬ恋文のようにここを訪れる彼の心を消沈させていく。

――どんなに祈ってもこの願いは叶わない。

――どんなに呪ってもあの日は帰ってこない。

 彼はポケットに忍ばせた紙片をまた一枚机の上に置き、慣れた動作で部屋の窓から外へ出ていった。

――なら。

 紙片に描かれた一言メッセージは様々だった。

『遊びに行こうよ。』
『元気にしているの?』
『どこにいるの?』
『会いたいよ。』
『だれも樹をせめてないよ。』
『見たら会いに来て。』
『一緒にいたいよ。』

 数十枚と重ねられた言葉の上に置かれた最後の一枚は。

『探しに行くから。』

 待つことをやめた彼の決意の言葉だった。


 誰もが眠りにつき夜の帳が下りた頃、薄い月明かりを頼りに一人の少年が家路についた。玄関に立ち寄らず、彼が目指したのは鍵のかかっていない自身の部屋の窓だった。誰にも気づかれないよう物音も立てず窓をよじ登り侵入した彼はそのまま床に座り込み次の夜まで休息を取ることにする。

 数年ぶりの主の帰宅だったが、待ち人はいなかった。

翠月 第6話-了-


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