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翠月 第2話-襲撃-

「だー!もう!うっぜぇ!!」
 崩れたビルの陰に隠れながら仲迪 智は悪態をついた。たまたま立ち寄ったスラム街の一角で探し人の情報収集をしていた彼は、どうやら街の住人たちに目を付けられてしまったらしく襲撃を受けてしまったのだ。力なくだらりとぶら下がる左腕は、金属の棒のようなもので殴りかかられとっさにガードした際骨を折られてしまった。常に警戒を怠らないとはいえ街の住人ぐるみの不意打ちには対処できず、左腕の激痛も相まって逃げることに手一杯になってしまったのだ。
「……っ。」
 さっきの悪態は声になったが、隠れて緊張が少し緩んだのか激痛に今度は声が出せない。筋肉は内出血し赤黒く腫れ上がり発熱し、それだけでもかなりの痛みがあった。その上骨も折られていることもありズキズキと焼けるような激しい痛みが襲い、涙目になる。このままでは満足に逃げられず袋叩きに合ってしまうだろうと彼は自分を奮い起こし額の汗と共に涙をぬぐう。 そして痛む左腕から一旦右手を離し、一呼吸置いて右手に精神を集中させた。 激痛が精神の集中を邪魔するものの、周囲から集めた不可視のエネルギーが薄い緑色の光となり右手のひらに集中し、治癒効果を持つエネルギー体ができ始める。 エネルギー体を左腕にかざすと激痛は少しずつ収まり、折れてしまった骨や打撲した筋肉を驚異的な速さで修復していく。 「治るまで時間がかかるな……。」  痛みが緩和するとともに冷静になり始めた彼は次の行動を思案する。 力を使い短時間で回復することができるとはいえ、本来なら全治一カ月程度の怪我、住人たちに見つかるまでの時間で完治できるかどうか。 しばしの沈黙の後少し離れたところから住人たちの足音と声が聞こえてきた。 「……そう都合よく待ってくれるわけないか。」 四割程度回復したところで住人たちに発見されてしまいビルの陰から飛び出した彼はホルスターから銃を引き抜き天に向かって発砲する。 住人たちは拳銃を持っていることに一瞬怯んだものの、すぐさま他の住人が銃を構えて発砲すると勢いを取り戻し、今度は銃弾の雨が彼に襲いかかった。 「いい加減にしろ!」  怒号とともに引き金を引き銃弾が発射されるやいな銃弾は霧散し、彼を守る淡い緑色の光の壁となった。 住人たちの撃った銃弾は光の壁に阻まれ跳弾し辺りに散っていく。 状況を把握していない住人たちは銃を乱射するものの、光の壁の前では彼に全く届かない。 銃を構え目の前の住人を見据えたまま彼はほんの少しだけ口角を上げた。 この状況にしびれを切らした一人の大男が後先考えずに殴りかかってくる。 展開していた光の壁を解除し拳銃をホルスターにしまい、智は目を見開いた。 殴りかかってくる男の腕の動きを見極め、バックステップでかわすと同時に、腕を右足で蹴り上げ、左回りに回転し鼻頭に向かって治っていない左腕で裏拳を叩き込む。 威力はないものの、相手を怯ませるには十分だった。 鼻から血をたらし男が一歩後ずさると、次の男が今度はボコボコの金属製バットで殴りかかってくる。 振り下ろされるバットの軌道を確認し難なく懐に潜り込んだ彼は鳩尾に右肘鉄をお見舞いした。 あまりの痛みに崩れる男の脇をすり抜けるともう一度ホルスターから銃を引き抜きグリップ部分で男の後頭部を殴り、失神させる。 鳩尾への肘鉄だけで止めるつもりであったが、金属の棒で殴られた先の一件があり、相手は違うもののつい八つ当たりのような追撃をしたのであった。 それを見ていた鼻血の男は彼自身の打撃力は少ないとみたのか、何をされても殴り飛ばすとでもいうような形相で拳を振り上げてきた。 しかし……。 「もうおねむの時間だよ、おっさん。」  頭に血が上り隙だらけだった男の顔を真上に蹴り飛ばす。 蹴り飛ばされた男は倒れざまに空から淡い緑色の光が降ってきているのを目にした。 他の住人たちも突然下りてきた光に目を奪われる。 その光が住人たちに触れるとたちまち住人たちは崩れるように地面へ倒れ込んだ。 先ほど空に撃ち放った彼の弾丸は一時的に意識と記憶を失わせるよう力を込めたものだったのだ。 街の住民ぐるみの襲撃だったため、周囲に行き渡るよう戦闘の最中も集中して力を操っていた彼は緊張の糸が切れたようにその場にへたり込んだ。 「痛たた……そう言えば左腕完治してないんだった。」  左腕をさすりながら、勢いよく裏拳を叩きこんだことを少し後悔する。 そして一息つくと立ち上がり、住人たちの懐を物色し始めた。 「迷惑料はきっちり貰うからな。」  口をとがらせつつ一人当たり約千円を迷惑料として拝借すると、街を出るために車を駐車した場所へ歩きだしたのだった。

翠月 第2話-了-


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☆蒼月・翠月特別編☆

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