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翠月 第1話-壁-

 荒廃した道路を一台の車が走りすぎる。
 くすんだ深緑色の軍用車両にはフランス語で「Aie un espoir(希望を持て)」と書かれたペイントが施されていた。
 日本の車と違い左ハンドルであり、それを運転する少年には車内構造が些か大きいようだった。緑色に光る瞳を大きく見開き、道路の落石物やヒビ等を見逃さず慎重に避けながら運転している。
 この車の動力は第三次世界大戦――イスラム原理主義者や中東の化石燃料や希少金属で成り立っていた国々が中心となって起こしたとされる世界的テロを引き金に起こった戦争――の一因にもなったと言われている、半永久融合炉(原子力発電を超小型化したようなもの)を搭載しているため一世代前のガソリン式や電気式自動車のようにエネルギー切れの心配はない。恐らく彼が長生きして死んだ後も数十年は動き続けられるだろう。また、普通車と違い軍事用であるため、動力部以外の手入れは誰にでも出来るように設計されている。その半永久融合炉は設計当初から完全なブラックボックスと化しており、技術者、設計図、制作技術ともども根こそぎテロで喪失したことから再現不能な品物となってしまった。故に夢の技術と呼ばれ解析を試みる技術者が後を絶たなかった。が、夢の技術の解析は至る所に施されたプロテクトに阻まれことごとく失敗を重ね、内部構造を物理的に把握しようとしたものは動力の暴走を呼び中性子爆発とみられる爆発を起こしてサンプルともども消失してしまったなどもあり、ついにはされなくなった。現存する半永久融合炉は一部の軍隊で今でも使用されているほかは前述の危険からサンプルとして保存されているものがいくつかある程度である。
「今のところ順調だな。」
 アクセルを踏む足を緩め、仲迪 智(なかみち さとし)は軽く息を付いた。
 テロと戦争、その後の自然災害で政府というものが完全に崩壊して以来日本は公共事業、公務員、貿易等の機能が麻痺しスラム化の一途を辿っていた。道路や電気、水道等のインフラ関係は一部地方ではマシなところもあるが、大抵はこの道路のように荒廃していた。水に関してだけ日本は他国より優秀な分、派手な奪い合いの殺し合いは起こっていないものの、多くの人々の心は荒む一方だ。
 警察は自警団という形で残っているところもあるが大抵は無くなっている。
 暴力団や闇の商売人が横行し、薬漬けの人間が建物の物陰で果てていることも日常茶飯事だった。
「……あっちゃー。」
 順調に運転していた彼は思わず声を上げた。
 道路が地震による地殻変動で大きく寸断されていたのだ。断層が約二メートルほどの高さで壁のようになっている。
 車を降りて確認してみると綺麗に土が層を成していた。
 第三次世界大戦勃発後、全世界が大混乱に陥った通称「アース・デストロイ」と呼ばれる大地震の爪跡が今も復興されていない日本の至る所で見られる。
「面倒だな。」
 断層に触れながらダルそうに息をついた。この場所に来るまで一本道だったため、引き返すにしてもかなり戻らなければ道がない。戻るにしても既に夕暮れ時、そう長くは走れない。
 ただこうしている間にも探している人物の気配が遠のいていくのを感じるとどうにか越えていきたくなる。彼は一旦車に戻り断層から十メートル程離れた場所へ移動した。そしてまた車を降り、右の腰に付けたホルスターから自動式の黒い拳銃を引き抜く。
 所々傷が付きつつも手入れされた拳銃は夕日が当たると鈍い光を放った。
「この上の道路が壊れて無ければいいんだけど。」
 そう呟きつつ左手を拳銃に添え、断層を射抜くように構えた。先ほどのダルそうな表情は一変し、鋭くなった彼の緑色の双眸が輝きを増す。
 辺りの空気が張り詰め、静まり返った。
 一度大きく息を吸い込み衝撃に備えて脇を締めると、彼は人差し指を引き緑色に光る弾丸を撃ちだした。反動で軽く両手が上がるが、眼差しは光る弾丸に集中していた。
 断層よりも五メートル程手前で光る弾丸は爆散したかと思うと光が伸び断層と彼がいる付近までの間に緑に光り輝く道を作り上げる。
「……ふぅ。」
 拳銃をホルスターにしまうと軽く息をついた。地球に流れる不可視のエネルギーを固めた弾丸に自身の精神力を乗せて放つことで、通常では考えられない事象を引き起こすことが出来る力を仲迪 智は持っていた。彼は車に乗り込み、光の道が消えてしまう前にまた走り始めた。

翠月 第1話-了-


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