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ヒトガタ

 私は生まれながらに死人だった。人らしい感情が欠落して生まれ落ちた異常者と呼ばれる類のものだ。体機能に異常らしい異常はない。強いて言えば脳波が常人とは違うパターンを持ち、思考回路が常人のソレとは致命的に違う。
 人に、世界に何も求めず、三大欲にすら気づけない。
 自閉症を疑われたこともあるが、遺伝子に問題もなく、読み書き、運動も常人と同じであればそれは正常と呼べるものだった。
 脳波の特異性についてはどの医者も前例になく困惑するだけで何が正しく、悪いのか分かることはなかった。
 感情の欠落した私は、それでも人として生活に溶け込むことを強要するこの世界のルールに従っていた。

 時刻は午前0時。
 16歳となった私は当てもなく夜の街を散歩するようになっていた。目に映る物が目まぐるしく変わろうとも私には何の意味も持たない。全てが無意味であり、私のこの散歩も無意味だ。
「キリトちゃん今日もお散歩かい。」
 しばらく歩いたところで通りかかった物が声を掛けてきた。
 キリトとは私につけられた人名であり、竜宮司キリトと呼べば私のみを示す固有名詞だ。しかしキリトという人物はこの世界にごまんと居り、私のみを示していない。だがこの狭い路地裏で私と目の前の物と空間しか存在しないこの場においては恐らく私を示している。
 そして目の前の物は私に何度も近づいたことのある、性別的には男と呼ばれる人の一種。固有名詞で呼ぶとしたら白木実、私と同じ夜を徘徊する物だ。
「ああ。」
 声を掛けられたなら返事をしろというルールに従い私は返事をする。
「相変わらずそっけなーい。楽しいことないの?」
 私の手首をつかむと耳元で囁く物。そしてそのまま引き寄せて唇を押し付けてきた。
「楽しいことなんてあるの?」
 唇が離れ私は質問を鏡化して返す。
 物としての大きさは白木実がおよそ私の1.2倍はあるだろう。力は推定3倍。この物からしたら百合の茎のように容易く折られてしまいそうな私の手首を離すと、体と体を密着させてきた。
「何度でも教えてやるよ。」
 囁く声が獣じみた物に変わっていた。

 月明かりさえも届かない路地裏で物の荒い息遣いだけが響いている。
 私は地面に押し付けられたまま目の前の物を見ていた。
「キリトちゃんはホントにマグロだな。」
 内部から立ち上る痛みにすら無感情な私に相応しい言葉だろう。
 少しは楽しんだらどうだといわんばかりに腰を突き上げられようとも私は眉一つ動かさない。
 無意味な行為にも関わらず気が済むまで私の中に何度も性を零し続ける物。
 私は異常者だが、この物もまた異常者なのだろう。何故なら私はこの物と同じ男という人の一種なのだから。私という死体を抱いて死姦し続ける物。

 午前3時。
 ようやく気が済んだのか私の中から物を引き抜くとズボンを穿き直して私の横に腰かけた。
 私は足を開いたまま結ばれない視点で空を仰いでいた。
 零された性が閉じることを忘れた穴から流れ落ちている。
「何で抵抗しない。好きなのか?」
「抵抗する理由がない。例え今ナイフで刺すと脅されようと、ナイフで刺し貫かれようとも抵抗しない。」
 何も持ち合わせていな私は、事象に抵抗する理由など持っていない。
「……なんだよそれ。」
 口をとがらせ私と同じように天を仰ぐ。
 夜明け前の空は真に暗く、遠くの蛍光灯の光だけが辛うじて私とこの物を照らしていた。
「でもキリトちゃんらしい。キリトちゃんのそういうとこ好きだよ。」
 私の手のひらを探し、見つけると指を絡めてくる。
「もし俺が恋人になりたいって言ったら拒否する……?」
 尻すぼみに小さくなった言葉に対して私の返答は決まっていた。

ヒトガタ-了-


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