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雪化粧

――初めて先輩に出会ったのは雪がしんしんと降り積もる真冬の空の下でした。

「怖がるなよ。」
 先輩と付き合い始めて今日で一年。
 いつもと違う先輩の真面目な顔、先輩のベッドに押し倒された僕。これから何をされるのか分かってるつもりなのに、外で降り続く雪のように頭の中は真っ白になって口をパクパクさせていました。
 まるで氷みたいに体も表情も固まっている様子を見て、先輩は少し苦笑いを浮かべて困っているように問いかけてきます。
「……嫌か?」
 先輩の手が僕のおでこに触れて、そのまま頭を撫で始めました。
 僕は肯定も否定もできず、ただ先輩の優しい手に浸っていることしかできません。真っ白な頭で何か口にしようと思っても喉から先に言葉が出てこないのです。
 そんな僕を辛抱強く待つ先輩。初めてキスをした時も先輩は僕の心の準備が出来るまで待ってくれていました。でも今日は心なしか先輩の顔に余裕が無いようにみえます。
 喉から声が出ない僕は意思表示のために首を横に振ることを思いつき首を振ってみました。
「嫌なのか……。」
 首を振った時先輩の手を振り切るくらいの勢いで動いてしまったために先輩は勘違いしてしまったようで「やっぱり男同士だもんなぁ……。」と頭を掻きながら呟いて、さっきとは違う悲しそうな苦笑いを浮かべました。
「ち、違います……。あ、あの、僕……。」
 顔をこれまでにないくらい赤くして僕は目を瞑りました。
 最後まで言えない僕の言葉を解釈した先輩は僕の頭を撫でて少し笑いました。
「俺、お前と毎日会えるの今日で最後なんだ。」
 急に先輩が切り出した言葉に僕は目を見開いてきょとんとしてしまいました。先輩のお父さんが海外に出張することになって先輩も一緒について行くことになったのだと聞かされる僕。混乱する頭が急に冴え、理解した途端僕の顔は崩れ、目頭が熱くなって堪え切れず涙が流れだしました。
「ごめんな。もっと早く言い出すつもりだったんだけど言いづらくてさ。」
 いつもと違う真面目な顔、余裕のない顔、その裏にあったのは別れが差し迫っていたから。
 いつの間にか先輩の顔が僕の目と鼻の先にまで近づいていました。
 うっすらと涙で潤んだ瞳。
 僕のように感情をそのまま出してしまうことのない先輩が見せた初めての涙。固まっていた体が動き、僕の指が先輩の目じりに溜まった涙をそっと拭いました。
「お前の肌って雪みたいに白いよな。」
 ベッドに突っ張っていた先輩の左手がゆっくり力を抜き、先輩の体が僕の上に重なりました。
 初めて感じる先輩の重み。初めて感じる別れの重み。
 優しく見守ってくれた先輩との最初で最後の交わり。
 僕は何を言ったのか思い出せないくらい言葉を重ねました。心も体も思い出せないくらい重ねて……。

 明日になればもう会うことは出来ません。都会にたまたま降り積もった雪のように消えてしまう、ほんの一瞬の雪化粧を先輩に施された僕は明日からどうして生きたらいいのでしょうか。痛みと快楽のまどろみの中でぼんやりと考えていました。

雪化粧-了-


☆蒼月☆

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☆蒼月・翠月特別編☆

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