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蒼月 第6話-決意-

――両手で握りしめた銃はただ重く、命はただ軽く。

 硝煙と鉄にも似た生臭い匂いが部屋に立ち込めていた。
 銃を突き付けられ、死を覚悟していた僕は何かに憑りつかれた様にお義父さんの銃を奪い取り、射殺していたのだった。
 遺体の横に転がる注射器と溶かさず残された覚醒剤。
 そして僕を抱きしめたまま息絶えたお母さんの遺体。
『ごめんね、ごめんね……。』
 お母さんの最期の言葉が僕の心の中で反響し消えていく。胸元から流れ落ちてくる血は僕の手と銃を紅く染め上げていった。
 引き金に指を掛けお母さんを撃ち殺す刹那、智(さとし)の笑顔がよぎっていた。……僕は人を殺してしまったのだ。

 戦い方には二つあるという。生きるための戦い方と、殺すための戦い方の二つ。
 戦場で私はその二つを学び、生きるためと殺すために多くの人々を殺めてきた。軍を脱退し、ボランティア牧師と称して日本に潜伏している私のせめてもの償いとして、未来を担う子供たちに生き抜く知恵とのちに必要となる勉学を教えている。戦場で地獄を見、神がいないことを知りながら牧師に偽装して生活している私はなんと滑稽だろうか。
 雨が吹きすさぶ夜、教会の長椅子に腰かけて明日の勉学会の教材をまとめていた私は不意に開かれた教会の扉へと視線を移した。
「……樹君。」
 雨と泥と『血』にまみれた教え子の姿を捉えた私は奥歯を噛んだ。
 高見 樹(たかみ いつき)、彼は両親から日常的に虐待を受けていた少年である。虐待の影響か感情を押し殺しているかのように物静かだが、同じ教え子である仲迪 智(なかみち さとし)と非常に仲が良いようだった。成績は優秀で頭の回転が速く、年長者でも時間を要するような問題を易々と解いてしまうほどの天才肌を持ち合わせていた。世が世なら学者か、もしくは経営者として大成する気質があった。そんな彼が雨の中こんな姿で私の前に現れた理由は恐らく……。
「殺したんだね。」
 伏せているため見えにくいが彼の目は幼いながらも既に殺人者の『ソレ』になっていた。瞳に光は宿らず、絶望とある決意をたたえている。
「ヴァーノン先生……殺すための戦い方を教えて欲しい。」
 私は背にした教会の十字架に怒りが吹き上がりそうになるのを堪え、彼のもとへ歩みを進めた。

 一晩、私は彼に殺すための戦い方を教え込み、次の日は勉学会を休会した。
 そして夜がやってきた。
 待ち合わせの場所で彼の到着を待っていると雨が降り始めた。
「この雨は誰(た)が流した涙か。」
 戦闘を前に独り詩的なことを呟いていた。私はこのまま彼が来ないことを願い、空を見上げる。しかしその願いは叶うことなくバイクのエンジン音が近づいてきていた……。
――間違っていても構わない。

 僕は正確に男たちの頭を撃ち抜いていく。

――人殺しの僕はもう君に触れちゃいけない。

 血に染まった掌がフラッシュバックする。

――君にこんな思いが降りかからないように僕は。

 銃弾を補填し、守るためにただ壊し続けた。


蒼月 第6話-了-


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☆蒼月・翠月特別編☆

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