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蒼月 第5話-邂逅-

『こんな研究にもう意味などないと何故分からない。』
 お父さんの声が遠くの部屋から聞こえた。
『意味はありますよ、久木博士。再び戦争が起こった際一般兵士よりもっと強い人造人間が敵を駆……。』
『もう戦争など必要ない。いつまでも私たちは過去に囚われたまま生きてはいけない。今の日本には自衛隊も軍もないというのに何故こだわる。』
 嫌な人の声をお父さんは遮った。
 私たちを実の子のように愛するお父さんと、私たちをただの実験動物としか見ない嫌な人。
『だからこそ創設するのです。戦争で日本が勝ち残れなかったのは中枢を破壊されたからではない、ゲリラ戦にも耐えうる強い兵が居なかったからなのです。』
 私たちが作られた理由、そのための命……聞きたくない言葉に私は耳を塞ぎたくなる。
『しかし……。』
『やれやれ、研究者でありながら実験動物に情が移っているとは……。貴方はもう必要ありません。』
 嫌な人の冷やかな声と共に銃声が轟いた。

――その日、唐突に犬を拾った。

 日差しがゆっくりと西に傾き始めた正午過ぎ、僕は次の目的地を目指すため山道を進んでいた。幸い土砂崩れもなく道路も比較的綺麗だ、バイクを走らせる身としてはありがたい。
 所々ある障害物を避けながら進んでいると唐突に脇の森から白い人らしき影が現れ道路に倒れ込んだ。
 普段なら気に掛けることもなく通り過ぎるはずだった、その人らしきものの姿を近くで捉えるまでは。
 横たわっていたのは少女だった。手術着にも似た白いワンピースに裸足という姿までは異様でありながら許容できる範囲だろう。手に握られた二対の鉤爪と所々血に染まり紅くなったワンピース、そして頭部に生えた獣のような耳と腰部の獣の尻尾、紅い髪の毛が異常な者であると認識せざるえない証拠だった。
「この近くに。」
 少女が飛び出してきた誰もいないはずの森にぽつりと呟いた。

 薬の匂いがする……。
 ハッと私は目を覚まし、起き上がるとすぐさま周囲を見渡した。身に着けていた鉤爪はなく、着ていたワンピースもなく、包帯が巻かれ手当がされた体に毛布が被せられていた。
 どうやら川辺で眠っていたらしい。
 横では薪が赤々と燃えあがり、私が着ていたワンピースは干されてはためいていた。
「……誰?」
 薪の向こうにバイクと人影があった。
 追いかけてきた研究所の職員でないことは明白だったが、私は毛布を蹴り捨てて臨戦態勢を取る。
 人影はゆっくりとした動作で立ち上がると、私と真正面に向かい合った。

 その時、私は息を呑んだ――。

 西日の逆光に照らされ透き通るような髪の毛が赤々と輝き、落ち着き払った水色の双眸(そうぼう)が私を見据えている。逆光で少し判り辛いものの男とも女ともとれる中性的な容姿。黒いタンクトップにオイルや砂で汚れたジーンズ越しにわかる、少し痩せ型ながら均整のとれた身体つき。
 ただ立っているだけで何か底知れぬ畏怖を感じてしまう誰ともわからない相手にいつの間にか私は見惚れてしまっていた。
「高見 樹。」
「えっ……?」
 不意に発せられた言葉に私は現実に引き戻される。私の問いに答えただけだという簡単な事実を理解することに数秒を要してしまった。同時に私は臨戦態勢を解いてその場にへたり込んでしまう。
 助けたということは恐らく悪意はないだろうという認識と逃げ続けて溜まった疲労が押し寄せて動けなくなってしまったのだ。
 樹と名乗ったその人はバイクに引っかけていたオレンジ色の上着を掴むと私に差し出した。
「?……あ!」
 警戒していて気づいていなかったが傷口や当て木をされて包帯が巻かれたところを除き今の私はほぼ全裸のようなものだった。何かいたたまれない羞恥を感じながら私は少し大きめのパーカーを被る。
「あ、あの……私、薫です!」
 半裸でへたり込んでいるという情けない状態で私はその人に名乗ったのだった。

蒼月 第5話-了-


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