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蒼月 第4話-黒白-

――涙が上に流れていく。

 黒と白の世界。水面はただ黒く、僕の足を濡らす。白い建物が立ち並び、空は黒く、白い月が辺りを照らしていた。この世界には白と黒以外色は無い、僕を除いて。  返り血で鮮明な紅に染まっている僕の体。
 黒と白で二値化された無意味な世界にただ独り立ちすくむ。制止した水面は音を立てることもなかったはずだった。

『ぴちゃん……。』

 僕の背後で水音が立った。水の中に浸っていた何かが立ちあがったのだろうか。幾重にも滴が流れ落ちる音がしていた。
 その瞬間僕はこの姿を見られてはいけない……と、わけも分からず走りだしていた。背後の水音の主から逃げるように。
 水面が波を打ち黒い飛沫を上げ、僕の歩幅に合わせて音を立てた。
「……っ!」
 声にならない声を上げた主が僕を追って走ってくる。
 振り返ってはいけない。見られてはいけない。
 まるで頭の中を呪文のように二つの言葉が交錯する。何故振り返ってはいけないのか、何故見られてはいけないのか。疑問だけが膨れ上がっていく。

「ま……っぇ……!」

 聴いてはいけない。三つ目の言葉が頭の中をよぎった。……どうして。

「待って!!」

 どうしてこんなところに来てしまったのだろう。今の僕は、君に会うことなんて叶わない。だって僕は――。

「樹!!」

 僕の足が止まった。
 背後の主の足音も止んだ。
 ……本当は分かっていた、僕の後ろにいるのは紛れもない君だってこと。僕なんかを追ってきてはいけない。僕が君に会ってはならない。だから君がそう思わないように僕は無気力に振り返った。

「智、僕はもう汚れてしまったんだよ。」

 白と黒しかない世界で紅い血に彩られた僕を見た君の顔は……君の顔は。

 足元が崩れていく。周りは何もない。ただ黒く、冷たい空気だけが頬を撫でた。いつの間にか流れ出た涙が上に流れていく。
 差し延ばされた君の腕は空を掴む。

「あぁ。」

 僕は落ちていた。何処までも深く底の見えない奈落にこの身を委ねていた。このまま落ちて底に到達したら僕は死ぬのだろうか。それとも底は永遠に無くただ堕ち続けるのだろうか。
 どちらでも構わない。
 君という光を求めようと思わなくなるならもっと深く堕ちていこう……。

 ふと僕は目を覚ます。
 窓の外を覗くと、空は何処までも深い闇に覆われていた。まだ夜明け前なのだろう。
 タオルケットを羽織り、そっと窓を開けてみる。
 夜風が頬を撫で涙の流れた筋はただ冷えていた。

蒼月 第4話-了-


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