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蒼月 第3話-破壊-

――壊すことだけが僕の全て。  恐怖に歪んだ顔、人の焼ける臭い、床に広がる血だまり。銃弾でボロボロになったソファ、砕け散ったガラス。徐々に燃え上がる建物。
 そのどの光景にも僕は眉一つ動かさず、ゆっくり歩む。
 左手に握った銀色のリボルバー式の拳銃『シリウス』が周囲の炎を写し込んで紅く煌(きら)めいていた。下げていた左手を持ちあげ、恐怖で動くことができなくなった男に引き金を引く。
 轟く銃声と共に射出された銃弾は男の目を貫き、脳を抉(えぐ)ったところで急激に発熱し内部から燃え上がらせた。
 この男の名前は広川 浩一(ひろかわ こういち)。広域暴力団である堅竜会のここ神奈川県藤沢支部の支部長を務めていた人物。堅竜会の保有する薬の管理を任されていたこともあり、本部と殆ど変らない支部の運営を受け持っていた。
「残り二人。」
 僕はそう呟くとまた左手を下ろし、歩みだした。情報屋から買ったデータを元に一人一人顔と名前を記憶し、一つの抜けもないように確実に壊す。壊さなければいけない、ただそれだけ。何故壊さなければならないのか、理由などとうの昔に淡い感情と共に消えてしまった。
 シリンダーのロックを解除し、腰袋に入れたスピードローダーを取り出して次弾を装填する。弾丸の色は凍りつくように冷たい水色で、まるで。
「……。」
 僕は右脇から感じたかすかな気配に向かって振り返ることもなく左に跳ねて引き金を引いた。
 二つの銃声が交錯する。頭の右横を銃弾が通り、空気の衝撃波が軽く僕を殴りつける。
 一方僕が放った銃弾は着弾と同時に氷柱(つらら)で出来た氷の花を咲かせた。
 振り返ると氷柱が男の体を貫き地面に新たな血だまりを作っていた。男はまだ辛うじて息があるのか僕へ向けて震える手で銃をもたげる。この男は確か広川の右腕、相沢 隆(あいざわ たかし)。頭の良い広川とは対照的に力でねじ伏せる豪胆なタイプだが、広川からも部下からも信頼が厚く、この支部の実質的なまとめ役と言っても過言ではない。
「坊や……が襲撃者だっ……たとは……な……。」
 氷柱に内臓を貫かれ、口から血を吐きながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
 僕は銃を構え直した。

 ここを襲撃する前夜、僕は酒場で相沢と言葉を交わしていた。ただでさえどう見ても10代前半の子どもで、その上に水色の髪と同じ色の凍るような瞳は明らかに悪目立ちする。しかも酒場で酒を煽っているそのほとんどが堅竜会の組員ときて、何も臆せずただ静かにカウンターで酒を飲んでいる姿は異様だろう。奇異の視線を全身に浴びながら、それらを全て黙殺し僕はただ観察をしていた。
「ここは坊やが来るような店じゃないだろう?」
 芋焼酎を片手にほろ酔い状態の相沢が話しかけてきた。
 観察対象と会話など端からするつもりのない僕は黙ったままウイスキーを口に含む。
 グラスの氷が音を立てただけで沈黙が続いた。
「マスター、坊やと同じものをくれないか?」
 相沢は手に持っていた芋焼酎を空け、そう言うと僕の肩を叩いた。
「こんな歳から酒なんか飲んでいたらまっとうな大人になれないぞ。」
 笑いながら窘める相沢に背を向けると、僕はカウンターに代金を置いてその場を立ち去ることにした。
「気分を害したか。」と軽いため息のような音が聞こえたが気にすることもない。明日僕はここに居る者たちを壊すのだから。
「良い酒の趣味をしている、また飲もう。」

 ほとんど意識がないだろうと思われる相沢だが銃をもたげたその腕は僕に狙いを定めようと必死でいた。
 僕はもう一度引き金を引いた。

 宵闇に燃え上がるビル。中にある死体も薬も何もかもを燃やし尽くすのも時間の問題だろう。
 相沢を殺した後、僕は残る一人を殺してビルを出た。
 ビルからは黒い煙が立ち昇り、窓ガラスは熱で割れて火を噴きださせている光景を見ながら僕は後ろ腰に右手を回した。
――まだ全てを壊し切っていない。
 ホルスターから金色の中折れ式拳銃『レグルス』を取り出すとそれをビルの中心に向け構えた。そして引き金を引く。
 二つある銃口が轟音と共に二色の火を噴いた。光り輝く黄色の弾丸と、燃え上がる炎のような赤い弾丸が互いに交差し二重螺旋を描きながらビルの中心を穿つ。
「……壊せ。」
 ビルが一瞬光を放ったかと思うと、次の瞬間跡形もなく爆散した。軽い塵が舞ってはいるが、かつてそこに堅竜会の支部ビルが有ったという形跡すらないただの平地になり果てる。
 僕はホルスターに拳銃をしまうと踵を返し歩み始めた。次の壊すものを求めて。

蒼月 第3話-了-


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☆蒼月・翠月特別編☆

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☆短編☆

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