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蒼月 第2話-写真-

 私の生きてきた中で恐らく一番の怪現象だった。
 目の前で私の晩ご飯になる予定だった野菜スープを美味しそうに食べる少年、仲迪 智(なかみち さとし)の助けがなければ、今ごろは銃弾に撃ち抜かれ、血に塗れてこと切れていたことだろう。
「おねーさん、おかわりいい?」
 少し高い声と人懐こそうな笑顔で言われてしまい私は自分の分の野菜スープまで上げてしまった、もちろん助けてもらったお礼の意味も込めてなのだが。
 ここ数日ろくなものを食べていなかったようで、野菜と少量の鶏肉を塩で味付けしただけの私のスープにかなりご満悦なようだ。緑に光る双眸(そうぼう)こそ異質さを放っていたが、顔はやんちゃ盛りの少年のようにあどけなくとても16歳とは思えない。薄汚れた大きめの深緑のパーカーにダボったい綿パンが智の幼さを強調していた。
「ここら辺って美味しい草が無くってさー、美味しかったのはタンポポぐらいだよ。」
 と食べられる草が少なかったことに口をとがらせて憤慨しつつ、完食した智はご馳走様と手を合わせる。
 もし私に息子がいればこんな風ににぎやかな食卓なのだろうかと、ふとらしくないことを考えてしまった。今思えばここ数年誰かとのんびり食事(私は一口しか食べて無いが……)をした記憶が無い。情報屋という職業柄、女盛りといえども恋にうつつを抜かすことはなかったのだ。……機会がなかったわけではない、断じて。
 またらしくないことを考えてしまったのは、キツネかタヌキに化かされているようなこの不思議な状況を納得できていないからだろう。
 智の放った光の壁が私を守り、男たちを気絶させ、さらに彼らのここ数年の記憶まで消してしまったのだから。
「……俺の顔に何か付いているの?」
 私が顔をぼーっと見ていたせいか、ばつの悪そうに口周りやほっぺたを手で触り確認する智。
 不覚にもしぐさが可愛いと思ってしまったのは本人には内緒にしておこう。
「何もありませんよ、ただ小さい時から顔が変わらないなと思いまして。」
 軽く誤魔化しながら、二人の幼い少年が並んで写した写真と目の前の智を見比べてみる。肩組をし、満面の笑みとピースをするヤンチャそうな少年は今目の前にいる智、その隣にいる少し大人しそうな笑みを浮かべてピースする少年……私があの雨の日に遭遇した『彼』だ。
 髪の毛や瞳の色こそ違えど、面影は同一人物とみなしていいほどに一致していた。彼の名は高見 樹(たかみ いつき)というらしい。
 4年前、薬で狂い両親に殺されかけたところを逆に銃で撃ち殺したのだと、さっきと打って変わって沈んだ表情で語る智。旅に出ることを止められなかった自身への後悔と葛藤があったのだろう。
 それと同時にただの友人関係以上の感情を有していることに私は気付いた。もっとも本人が気付いているのかどうかは別だが……。
 日本は他国からすればとても狭い国だが、人を一人探し出そうとするには広すぎる。しかし逢いたいという一心が成せるものなのだろうか、智は今一歩届かなかったにせよ彼の足取りを掴みつつあった。
「今日はもう遅いですし、泊まっていきますか?」
 もう少し話を聞いていたかったが、智の表情があまりにも寂しく辛そうだったので話を打ち切る。
 私の問いにコクリとうなずいたので、使っていない空き部屋へ智を通した。

 翌日、雨は止んだようで清々しい青空が広がっていた。
「昨日のスープ美味しかった、ありがとう。」
 別れ際、昨日の曇った表情から一変、この青空のように清々しい笑顔で智は礼を言ってきた。
 料理にさほど覚えのない私だが、こうも喜んでもらえると嬉しくなりつい余計なことを言ってしまった。
「無事彼氏と逢えたらまたいらっしゃいよ。」
 私の『彼氏』の発言にピクっと反応する智。前にも同じこと言われたと頬を赤らめ苦笑いを浮かべていた。
 ……なるほど、自覚はあるらしい。
 走り去っていく智の車を見送り、私は店の準備に取りかかる。神など居ないと知りつつも、彼と智が出会えるよう柄にもなく祈ってしまった。

蒼月 第2話-了-


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