■Top

■About

■Illustration

■Novel

■Index

■Clap

蒼月 第1話-情報屋-

 ……土砂降りの雨。
 茶殻で作った紛い物の煙草を燻らせながら私は一人、ヤクザ者の男たち四人と対峙していた。
 この男たちの目的はただ一つ、情報を売った私を殺すこと。
 情報屋として生きてきた私にとって今が最期の一時になるのだろうと思った。
 男たちの握っている黒い自動小銃がピタリと私を捉えている、何をしようと逃げられはしない。
 場がしんと静まり返り、外の雨音が一層大きく聞こえるような錯覚に私は落ちていた。……そういえば、私が『彼』に出会ったのもこんな雨の降りしきる夜だった。

 私の名は白田 里枝(しらた りえ)。首都圏から少し離れた小さな商店街に身を置く雑貨屋、兼情報屋だ。
 扱う雑貨は闇市で仕入れた海外の商品から盗品、武器まで幅広く、情報はこの周辺の闇市からヤクザ、外国人ブローカーなど、少々危ない橋を渡って生きている。
 ほとんどの客は前者が目当てで店を訪れるが、時々後者を目当てに来る客も居た。
「この辺りで薬(ヤク)を取り扱っている者たちのリストが欲しい、ですか……。」
 土砂降りの雨音が煩く鳴り響く中、私はほんの少し肩を竦めながら目の前のずぶ濡れた少年に向き合った。
 頭髪も瞳も透き通るような水色に染まり、肌も同じく透き通るような白く綺麗な肌をしている。濡れていることに構いもせず、無表情なその顔は男とも女とも言えるような中性的で精悍な顔立ちをしていた。身長は165cm程でまだまだ育ち盛りの年頃だろうか。彼の着衣はオレンジ色のナイロンパーカーに青色のジーンズで、所々破れていたり汚れたりしていた。手にはジュラルミンケースのようなものを持っている。
「何故そのようなものをお求めに?」
 情報屋としてただ情報を売るのではなく相手からも情報を引き出しておく必要はあるのだが、それとは別に年端もいかない彼がこんな雨の中ノコノコやって来て何故そんなものを求めるのか興味があった。ただ薬が欲しいだけなら態々取り扱い者全ての情報を集める必要も無いだろう。
 売りをしている業者なら嫌というほど町中に溢れかえっていた。
「壊す。」
 ただ一言、何の感情も込められていない言葉に私は得体の知れない戦慄を覚えた。今思うとあの戦慄は、きっとこの後の惨劇を予感していたのだと思う。
 彼は薬を取り扱ったという事実がある者、ヤクザから海外ブローカー、末端の売り子まで、合計327名を残らず皆殺しにしたのだ。それだけでなく、彼らが根城として使っていた建物さえも破壊され瓦礫と化していた。
 人間業とは思えない、悪魔の所業と言ってもいいかもしれないことを目の前の少年が行うなど、この時の私は知る由もない。それ以上何も訊かず、一人の情報につき2万円、合計654万円の情報を彼に売り渡したのだった。

 それから暫らくして彼らと関係のあった者たち、今向き合っている男四人が私を嗅ぎつけたようだ。既に何処かへ旅立った彼の代わりに、情報を売った私を殺して復讐を遂げようということなのだろう。
 死を覚悟し私は目を閉じた。
「……殺(や)れ。」
 一人だけ銃を構えていない初老の男が低い声で命令すると三人の男たちは一斉に引き金を引いた。
 立て続けに銃声が轟き、放たれた銃弾三発が私の体を貫こうとするその時だった。銃弾が跳弾する音が聞こえた後、男四人とは違う少年の声が響き渡った。
「させるかよ!」
 一体何が起こったのか分からず、恐る恐る目を開くと緑色の光の壁のようなものが私と男たちを隔てている。
 それどころか今さっきまで銃を構えていた男たちが気を失って倒れ込んでいた。
「な……に……?」
「おねーさんに死んでもらったら困るから寝てもらったよ。」
 黒髪に緑の瞳をした少年が軽く笑みを浮かべながら私の目の前に立っていた。

蒼月 第1話-了-


☆蒼月☆

プロローグ / 第1話 / 第2話 / 第3話 / 第4話 / 第5話 / 第6話


☆翠月☆

プロローグ / 第1話 / 第2話 / 第3話 / 第4話 / 第5話 / 第6話 / 第7話


☆蒼月・翠月特別編☆

七夕SS / 誕生日SS / 正月SS / 誕生日SS2


☆短編☆

雪化粧 / リストカット / リストカット-消失願望- / 囚われ / ヒトガタ


*Top*  *About*  *Illustration*  *Novel*  *Index*


© 2015 青猫屋

inserted by FC2 system